新富町在住で農業をしながら舞台・音楽活動や詩作・脚本などを手がける井上大輔さん。
東京生まれ大阪育ちの井上さんに仕事へ対する想いや、新富町で生活して感じたことなどを伺った。
初めて手にした自分の場所
—新富町に来たきっかけは何ですか?
井上:ある団体に声を掛けられ宮崎に来た後、新富町の会社で働くことになったのがきっかけです。
初めての町で当然知り合いもいませんでしたが、今では地区にも入り新富町での生活にも結構慣れてきました。
—新富町で生活を続けている理由は何ですか?
井上:やっぱり人生初の持ち家ですかね。
これまで路上生活も経験したことがある私にとって、自分の居場所があるというのは格別。
築100年ほどの家ですが、その家が本当に気に入っていて新富町を離れられない理由の1つになっています。
農業と舞台の両立
—自分の家が町で一番のお気に入りスポットというのは良いですね!井上さんは、普段どのような仕事をしているのですか?
井上:路地農家として1ha(ヘクタール)ほどの土地でお米・大根・かぼちゃ・小麦・蕎麦などを栽培。
その傍ら、舞台で脚本から役者までおこなう篠(しの)笛の演奏家として活動をしています。
—農業をしながら多方面で活躍されているのですね!?
井上:農業の全てを完璧にできている訳ではないですよ(汗)
舞台のシーズンは時間が取れず、畑に草が生えることもありますし、他の農家さんが見たら笑うかもしれない。
ただし、決して手を抜いているというわけではなく、農業にこだわりを持っています。
自然の“ありのまま”を活かした農業
—どのようなこだわりがあるのですか?
井上:すでに成功事例がある栽培方法ですが、簡単に言うと作物を大きく育てるための肥料を与えません。土にも作物にも。
人から見たら肥料を蒔いていると見られることもあるかもしれませんが、それは土壌に住む微生物に餌をあげているだけなのです。
人的な手を加えず、あくまで自然の循環で良い土を作るということを大切にしています。
—肥料を与えないと作物は育ちにくいのではないですか?
井上:確かに肥料を与えた作物と比べると難しい。
移住後、この農業に挑戦して7年経ちますが、今年ようやく納得できる大根を収穫できました。
それまでは本当に失敗ばかり。
今回成功したことにより、来年以降さらに良い結果を残すためには何ができるか考え様々なことに挑戦していきたいですね。
原点になった旅テント芝居
—そんな状況で農業と舞台を両立するのは難しくないのですか?
井上:そんなことないですよ。
大変と言われれば大変かもしれませんが好きなことなので。
20代の頃から舞台との縁が切っても切れない。
常に身近にあったし、これからも関わっていきたいと感じています。
—舞台に関わるようになったきっかけは何ですか?
井上:20代半ばで出会った旅テント芝居集団「群類風狂フーガ」との出会い。
日本全国でテントを組んで舞台をする集団なのですが、私が鹿児島にいるタイミングでご縁があり出演させていただきました。
開演まで練習を繰り返し本番に臨んだのですが、当時を振り返ってみるとお客さんの表情も見れないくらい、とにかく必死だったのを懐かしく思い出しますね。
40代になった今では、少し心に余裕ができたので宮崎の芸術にも触れるために県立芸術劇場へ赴き、宮崎の芸術家とも繋がれた。
その人たちに対しての恩返しも込めて、2019年3月14日に「汝は何色に染まりたきや」という舞台をおこなったのです。
メンバー全員宮崎の方で脚本も私が書かせていただいた今回の舞台をきっかけに、宮崎の魅力も伝えていけると良いですね。

篠(しの)笛を演奏する井上さんの様子
それぞれのストーリーを編む
—そこまで井上さんを突き動かす舞台の魅力とは何でしょうか?
井上:もともと物語を編むのが好きなのだと思います。
1つのテーマに向かって、それぞれの素材を編みながら物語が完成する。
やっぱり、その過程が大好きなのでしょうね。
—お話を伺っていると農業も舞台も、ストーリーを非常に大切にしているような印象を受けますが?
井上:そうなのだと思います。
路地栽培も、自然界でもともとある循環をそのまま活かすということを大切にしています。
簡単ではないですけが、何でも本気でやる性分なので苦ではありません。
好きなことを本気で
—気になるものは何でも本気で取り組むのですか?
井上:もちろん!
とにかく深く知りたいし、実践して自分のものにしたいって思いますね。
興味があることになると、“まずやってみる“が先行する。
家族から「珍しいね」と言われることもありますが、それが私なので自分の信じた道を本気で進むだけです。
これに関しては絶対にブレたくない。
好きなことを本気で貫く!
これを大切に今後も様々なことにチャレンジしていきたいです。
これからも地域で暮らすためには、生活の基盤となる収入を如何にして持続できるかが課題だと考える井上さん。
農業をベースに篠笛の演奏を始めとする舞台活動に取り組む井上さんは、これからも好きなことに全力で向き合っていく。